2013年8月28日水曜日

やんばるの森にできた悪性腫瘍

実際、案内してくれた本部の友人がこう言った。「本部町でもSACOの予算で『あじまもとぶ』という産業支援センターを建てましたが、基地がないから維持管理に四苦八苦しています。民間に委託しましたが、これもむずかしいようです。建ててから五、六年はいいのですが、それをすぎると管理費が跳ね上がるからです」本部町の人口は約一万四千人。辺野古地区の一〇倍でも、補助金がなければ維持管理がむずかしいのだ。政府に乗せられて建てるのだろうが、なぜハコモノ以外に使わせろと要求しないのだろう。九割引だからといって、ハコモノに依存すればするほど、結果的に骨まで国にしゃぶられ、基地経済から永久に抜け出せなくなる。まさしく魔のスパイラルである。

巨大な施設を自分で維持することができなければ、たとえ米軍基地反対を叫んでも、結果的に基地を永久に受け入れますという意思表示にならざるを得ない。嫌味な言い方になるが、辺野古を見ていると、「本当は米軍基地が欲しいんでしょう?」とでも言いたくなる。基地がないと県民の生活が成り立たないほどズブズブにはまり込んだら、基地経済から抜け出すことなどまず不可能だ。補助金を受け取るなとは言わない。もらえるものはどんどんもらって当然だ。ただ、同じカネを使うなら、基地がなくなっても、自立を可能にしてくれるものに投資すべきだろう。もしも補助金に縛りがあるというなら、米軍基地の痛みを受ける側として、地元にとって本当に必要なものを粘り強く要求すべきで、それが基地の代償というものだ。ある設計技師は、私にこう言った。

「ハコモノなんて、所詮、五〇年後にはゴミです」沖縄最大の観光資源は「やんばるの森」だと思う。一月の「やんばるの森」は、カンヒザクラが開花し、夜の森にじっと耳をすませると、イシカワガエルやハナサキガエルなどの透き通った鳴き声が聞こえてくる。三月になると森はいっせいに芽吹き、スダジイ、イジュ、タブ、シロダモなどの若葉と濃い緑が大地をだんだら模様に染め、見るも鮮やかな景色があらわれる。生きた化石と呼ばれるノグチゲラが、スダジイなどの大木に巣づくりをするのもこの季節だ。夏は暑くてちょっと辛いが、ヤンバルクイナと遭遇しやすい時期でもある。

やんばるの森はいつ行っても違った顔を見せてくれる。場所によって鳥の鳴き声が違ったり、私たちが見慣れている植物の野生種に近い種類もたくさんあって、何度行っても飽きない。〇七年だったと思うが、核物を研究している方とやんばるの森に入ったのだが、樹間を歩いていると、土砂を棄てている場所に出た。外からは目につきにくいが、赤土が積み上げられ、木々がなぎ倒され、何とも痛々しい風景だった。貴重な森を壊しているのはそれだけではない。最大の破壊行為は「林道開発」という名目の土木事業と、森林面積のほぼ三分の一近くを占める米軍の訓練場だ。地図を見ると、広域基幹林道・大国線と奥与那線が森林を南北に分断し、その東側に米軍の北部訓練場がある。

やんばるの森の破壊がはじまったのは、一九七七年に着工した辺野喜ダムと広域基幹林道・大国線の建設からと言われるが、今は基幹林道から枝分かれした通常林道が複雑に入り組んで迷路のようになっている。沖縄には離島を含む一三市町村に七一路線、二七一キロメートルの林道があり、北部の国頭村だけで一一〇キロメートルと約半分を占める。この林道建設のために、ノグチゲラの営巣木などたくさんの自然木が切り倒された。さらに、林道やダム建設の残土は谷間に捨てられ、沢筋を分断して生態系を攬乱してきた。そもそも、やんばるの森になぜ一一〇キロもの林道を張り巡らせないといけないのか、私には理解できない。