2014年8月20日水曜日

米国史上初のゼロ金利

「EU加盟国は連携して金融監督に当たるはずだったが、ふたを開けるとお粗末だった」と渡辺博史・国際協力銀行CEO(元財務官)は指摘する。米国発の金融危機なのに○七年以降に金融機関が抱えた評価損の三六%は欧州勢。中・東欧やアジアの新興国で事業を積極的に拡大した欧州銀は市場での資金調達に依存し、預金に対する貸出比率が「二五と米銀(〇・九三)より高まっていた。これが市場直撃型の危機で仇となった。国境を越える金融危機にどう取り組むか。「全欧州がまとまって立ち向かう」(サルコジ仏大統領)「グローバル危機にグローバル対応を」(ブラウン英首相)とトップの掛け声は勇ましいものの、現実は心もとない。

EUで共通基金を設ける構想が検討に入る前に頓挫。ドイツが欧州全域で銀行監督を強化すべきと主張すると、隣国ポーランドが慎重姿勢を示すなど足並みはそろわな代わりに奮闘したのが中央銀行だ。「我々は米国より早く資金供給手段を多様化した」。○八年十二月の欧州中央銀行の定例の記者会見。「金融危機対応で米国より遅れる恐れがあるのでは」と聞かれたトリシエ総裁は、こう胸を張った。流動性対策は各国政府が乗り出す以前、米金融不安が欧州銀行のドル資金調達問題として欧州に飛び火した○七年夏から各国で中銀が知恵を絞ってきた。代表的なのは、市場で買い手がつかなくなった住宅ローン担保証券など高リスク証券を資金供給の担保として受け入れ、銀行に資金を調達する手法。直接金融が発達した米国は、企業が発行するCPの買い取りにまで踏み込んだ。いずれも与信リスクをとれない民間銀行に代わって中銀がリスクを引き受ける。

こうした各国中銀の資金供給の効果で、リーマン破綻後に急上昇したロンドン銀行間取引金利(LIBOR)は○八年十一月には低下。民間銀行は期間一年未満の足元の資金は余剰になった。しかし中長期の資金調達のメドがたたない民間銀行は、不安心理から企業の設備投資や住宅融資といった中長期与信は拡大できない。このため各国政府は、銀行の社債など期間三-五年の債務を政府が保証する追加支援に踏み込んだ。民間銀行を政府が国の信用で支え危機をしのぐ非常手段。最終的に支援銀行が破綻すれば、損失は納税者が被る。

すでに民間銀行から様々な証券を担保に受け入れた各国中銀のバランスシートは急膨張。民間銀行は中銀の資金供給という「アメ」にますます依存し、中銀は「最後の貸し手というより市場で唯一の貸し手に近い状態になっている」(運用会社ニュー・アセットーマネジメントのエコノミスト、サイモン・ウォード氏)。リスクを勘案して成長分野に資金を配分する民間の信用仲介機能は弱ったまま。中銀が政策金利を下げても銀行の企業や個人向け融資の回復につながらないジレンマに直面している。

時計の針は定刻の午後二時十五分を大幅に回っていた。二〇〇八年十二月十六日、FRBの連邦公開市場委員会(FOMC)二日目。ようやく届いた「事実上のゼロ金利」「量的緩和を導入」のニュースに、世界の市場関係者は「予想を上回る歴史的な超金融緩和」と驚いた。ニューヨーク株式市場では、ダウエ業株三十種平均が一時三九四ドル高まで大幅反発。日米金利の逆転を受け円相場も一時一ドル=八八円六三銭まで上昇した。○七年九月に利下げに転じてからわずか一年三ヵ月。深化する危機に背中を押される形で、米FRBの金融政策は未到の領域に入った。