2014年12月16日火曜日

転職もしやすいような世の中とは

他の社員は仕事してる人もいるのに、自分はなにをやってるんだろうって。入社した時期が一緒で、年齢がひとつ上の男性がいるんですね。一緒によく飲みに行ったりして、愚痴を聞いてもらってるんですが、その人はすごく仕事にたいして前向き。プログラムに興味があるからって、まったく知識がない状態で入社して、一から勉強したんです。実際に仕事しながら覚えたんですよ。その人を見てると、自分はなんで座ってるだけで仕事してないんだろうって、本当に申し訳ない。恥ずかしい気持ちになる。

職場にいるのが耐えられなくなると、トイレの個室に行って時間を潰してます。本を読むんですけど、辛いときに限って、戦争ものが読みたくなるんですよね。『魚雷艇学生』つていう、特攻隊として沖縄に行く話なんですけど。明日自分は死ぬかもしれない、つていう切実な話なんですが、そのギリギリの心境にすごく共感したりしてました」彼は。KYだろうか?いいや、そうではないだろう。仕事をしていない現状になにも感じていないわけでは決してなく、むしろ申し訳ない、恥ずかしいとさえ思っているのだから。都内の玩具メーカーで働く桑渾恵太さん(26歳)は他人に相談できない心情をこう語る。

「あんまり他人には相談できないですよね。社内で仕事がない状態なんだって、誰かに言ったことはほとんどないです。仲のいい大学のときの友達なんかにも言いにくい。家族には話してますが、この辛さを全然分かってくれないので寂しいですね。嫁には『座ってるだけで給料もらえるんだから、辞めるなんて言い出さないでよ』なんて言われますよ。それだけならともかく、実家の親からは『仕事は与えられるものじゃなくて自分で探すもんだろ』つて説教されました。今って昔よりは確実に転職しやすくなってますよね。仕事の実績があれば、ちゃんと転職できる。社内失業者の中には、単に仕事をサボつてる人ももちろんいると思うけど、本当はやる気がある人だってたくさんいると思うんですよね。そういう社内失業者が理解されて、転職もしやすいような世の中になればいいと思う」

身近な家族からも理解されず、孤立している桑渾さんの心労は、いかばかりだろう。食品業界で営業事務として働く五木田義雄さん(32歳)も同じように、身近な人からなかなか理解されず、気に病んでいるそうだ。「同僚にはもちろん話してませんが、家族とか友人にはしゃべってます。たまに飲んで帰ると、妻からは『今日は遅かったのね。仕事ないのに』つて言われたりしますよ。悪気はないと思うんですけど、ちょっとヘコみますよね。だから逆に、こちらもネタにして、笑い話にしてやろうかと思ってます。『会社でなにも仕事なくて、今日も暇だったよ。1日中ブログ読んでるよ』なんて話、珍しいですから、飲み会では盛り上がるんです。最初は言うのが恥ずかしいって思ってたけど、吹っ切れましたよ。

恥ずかしかろうがなんだろうが、仕事がないのには変わりないんですから。ただでさえストレスになるのに、言えないとさらにストレスがたまる。だからもう、ストレスを減らすためにも、笑い話として話をしてますね」五木田さんのように笑い話にして周囲に話せる状況であれば、まだましかもしれない。しかし、そんなふうに吹っ切れられる人ばかりではない。和田英二さん(37歳)は、部品メーカー会社で働いている。仕事がない現状を他部署の知り合いにどうしても明かせないのだという。

「仕事がないにもかかわらず、周囲からは逆に忙しい人だと思われてる状態なんです。上司はもちろん知っていますけど、まわりには言えてない。『仕事を干されてる』なんて言うのは恥ずかしいし、怖くて。他部署の人と話すときには、なるべく自分の仕事の話にならないようにして、誤魔化してます。よく話す隣の部署の男性がいるんですけど、『和田さんも忙しいんだって?うちも毎日終電でさ、大変なんだよ。お互い頑張ろう』なんて言われると、ポンドは暇なんだよ、ごめん、つて思う。自分が仕事をしていないことで、本当に忙しい人の仕事を増やしてるんじやないか、つてやりきれなくなります」