2015年4月15日水曜日

キャリアの有する一種の抵抗力

生物をどのように考えてみても、アポトーシスとよばれている現象以外には、自分の存続を自分からやめようとする仕組みが見つからないからである。この場合の自分の存続にあたっての様式は、生物が地球上に現われて以来、長い時間をかけて作り上げてきた独自の原則に縛られている。キャリアとは、病原体をほかの宿主種の個体に伝染させる可能性のある形で、体内に病原体を保有している宿主のことをいう。病原体を保有していて伝染源になりうるという意味では、発病している患者と異なるところはない。この意味で、キャリアは病原体に対して、完全な排除反応を行なうことができない宿主と言える。ただキャリアが、その病原体に対して譲歩のような形で対応することは、キャリアの有する一種の抵抗力を示しているとも考えられる。

ここで、キャリアを免疫学の基本的概念でもある、自己・非自己の認識という観点から考えてみよう。キャリアは、非自己である病原体を排除しきれない宿主であるということになる。これをB型肝炎ウイルスに即して考えるために、成人が生後初めてB型肝炎ウイルスに感染したとする。このような場合、身体の中には、肝炎ウイルスが感染した肝臓の細胞を殺してしまう、特別なキラーTリンパ球が出現してくる。肝炎の症状が出てくるのはウイルスが増殖した結果、肝臓の細胞が破壊されるのではなくて、上述の特別なリンパ球が、ウイルスが感染した肝臓の細胞を殺すからである。このように肝臓の細胞が殺されると、中にいた未完成のウイルス粒子も破壊されてしまう。