2015年6月15日月曜日

基本的人権と地方自治の危機

繰り返しになりますけれども、我が国に対する計画的、組織的な攻撃だというように認定されるかどうかというところが問題だと思います。そうすると、認定されるような状況があれば、この法律が動く、適用になる、そう聞いていいんですね。理屈でいえばそういうことになります。ここでも「我が国」の範囲が海外でもありうると答弁されている。自衛艦や民間船舶も「我が国」の延長とみなされる。米軍艦と行動をともにする護衛艦も入るだろう。こうみると、武力攻撃事態法が周辺事態法の補完法、自衛隊を集団的自衛権容認に向けて開いていくものであることに疑問の余地はない。安倍首相が「研究する」として「柳井懇談会」に諮問した集団的自衛権行使の「個別具体的な事例」の一つがここにもある。

さらに重大な点は、武力攻撃事態法には、国民生活と密接にからむ基本的人権や財産権、地方自治に介入する条項がもうけられていることだ。「地方公共団体は(中略)武力攻撃事態対への対処に関し、必要な措置を実施する責務を有する」(第五条)、および民間企業に対するおなじ規定(第六条)がそれである。周辺事態法の場合にも類似の条文があったが(第九条)、そこでは「求めることができる」「依頼することができる」など任意規定であったものが、この法律では「責務を有する」と義務規定に変わっている。

武力攻撃事態法によれば、対策本部長(首相)は、まず「地方公共団体の長」に対し「対処措置に関する総合調整」(第一四条)を行い、応じない場合「対処措置を実施すべきことを指示」(第一五条)し、最終的に「自ら当該対処措置を実施し、または実施させることができる」(同条ことなっている。国による強権発動すなわち「代執行」である。福田官房長官は、「指示や対処措置の実施については、武力攻撃事態という状況下においては、万全の措置を担保するこうした仕組みが必要」(衆議院・武力攻撃事態対処特別委員会、二〇〇二年五月二〇日)と述べ、片山虎之助総務大臣もおなじ場で、「まず本部で十分な総合調整を本部長がやる。その上で、それに応じないという場合には指示を出し、さらにそれにも従わない場合には代執行をやる」と明言している。

自治体側は、総合調整に対し「意見を申し出ることができる」(第一四条のこが、それが否認されると抗弁の機会はない。国の要求が新規基地の提供であれ、民間空港・港湾の軍事使用であれ、さらに公立病院や施設の接収であっても、従うよりほかにない。さらに基本的人権の中心ともいえる言論表現の自由について、次の見解がなされていることにも注目しておくべきだろう。「憲法一九条の規定する思想、良心の自由、あるいは二〇条の信教の自由のうち信仰の自由の保障については、それが内心の自由という場面にとどまる限りにおいては、これは絶対的な保障であると考えられる。しかし、思想、信仰等に基づき、またはこれらに伴い外部的な行為がなされた場合には(中略)公共の福祉による制約を受けることはあり得る。

どのような権利、自由が制約を受けるか、(中略)これは将来、事態対処法制等、これから個別法制で整備していく。」(津野内閣法制局長官答弁、衆議院・武力攻撃事態対処特別委委員会、二〇〇二年五月二九日)ここでは表現の自由が「内心の自由」と「外部的な行為がなされた場合」に切り分けられ、後者は制約の対象になると答弁されている。「個別法制で整備」される条文の内容しだいでは、シュプレヒコールやスローガンの文字も規制されるかもしれない。こうみてくると、有事法制とは、「自衛隊有事法」「米軍有事法」「社会有事法」の三側面からなる憲法秩序の破壊計画であり、いずれの側面においても、憲法第九条はもとより基本的人権、地方自治の実質的停止につながりかねない内容をもっていることがわかる。