2015年9月15日火曜日

ウォール街の象徴的存在

我が国の金融機関の今後の姿を考えるとき、とくに言及すべき特徴がさらに二つほどあろうかと思われる。一つは、こうした再編の動きのなかで、グローバループレーヤーを目指す金融機関が、必ずといってよいほど投資銀行業務を強化しようとしている点である。

投資銀行は、ウォール街の象徴的存在である。すでに述べたように投資銀行とは、モルガンースタンレー、ゴールドマンーサックス、メリルリンチ、ソロモンなど、証券の引受・売買仲介・自己売買、企業の買収・合併などを、主として大手法人相手に行っている大手の証券会社(これらはバルジーブラケッ卜と呼ばれ、他の証券会社と別格扱いされている)の通称である。GS法が存在するために、米国内では商業銀行業務は行えない。

これまで金融革新の推進力となってきたその強烈なカルチャーは、荒々しい市場原理主義そのものである。この高収益、ハイリスクの業務で、欧米勢に渡り合えるようになるかどうかが、我が国の大手金融機関をめぐる再編の行方を左右する大きな要因になるのではないかという見方がある。そして、この問題は、じつは本書の冒頭にふれた、日本の金融改革をめぐる根本的な考え方にも通じるので、後であらためて考えてみたい。

第二の特徴は、改めて指摘するまでもないことだろうが、現段階では、世界的な大型再編の波のなかに、主役としての日本の金融機関の姿は見あたらない。ジャパンーマネー華やかなりし頃、大手邦銀は、米国の商業銀行や財務省証券プライマリー・ディーラーなどを次々と買収したこともあった。それが九〇年代の半ば以降は、国際業務の戦線縮小の一環として、それらを手放しながら生き残りのための再編を模索するのが精一杯である。専門家が予測する二十一世紀のグローバルな金融機関のリストの中には、残念ながら本邦の金融機関の名前は見出せない。

たとえば米国最古のプライベートーバンク、ブラウン・ブラザーズーハリマンがあげたリス卜をベースに、その後の動きを勘案して修正し、二十一世紀の「特権グループ」をあげると次のようになろう。米国系は、ゴールドマンーサックス、リーマンーブラザーズ、メリルリンチ、JPモルガン、モルガンースタンレー・ディーンウイッター、シティーグループ、欧州系ではABNアムロ、ドイツ銀行、HSBC、クレディースイス、UBSとなる。