2015年10月15日木曜日

内部情報の取り扱いとコンプライアンス

日本でも昨年、楽天、ライブドア、ソフトバンクなどの企業によるプロ野球球団ビジネスへの参入の動きが話題になりましたが、これらの企業も買収を重ねることにより、かなりのスピード感で企業価値を増加させてきています。一九九七年に設立されたばかりの楽天の時価総額は今や約一兆円です。検索サイトのインフォシーク社(二〇〇〇年に買収)をはじめ、「旅の窓口」二〇〇三年)、ネット証券のDLJダイレクト(二〇〇三年)、あおぞらカード(二〇〇四年)など、数々のM&Aを行なってきました。

ライブドアの時価総額は二〇〇〇億円、ソフトバンクは一兆五OOO億円です。一方で、たとえばプロ野球参入を審査した阪神電気鉄道の時価総額は一四〇〇億円です。株式市場は、審査する側にいた阪神よりもライブドアのほうを高く評価していたのです。もっともプロ野球への参入を審査する側には西武鉄道もいました。西武は有価証券報告書に虚偽の記載をし、二〇〇四年十一月十六日に上場廃止が決まりました。1ヵ月前には一一〇〇円を超えていた株価は、当日は一八八円まで下落。二〇○五年三月には堤義明西武鉄道グループ前会長が逮捕されました。株式市場を裏切った企業とその経営設任者の末路でした。

長い間M&Aのアドバイザーをしていて改めて私か実感しますのは、日本企業が内部情報の取り扱いやコンプライアンス (法令遵守)に関して、あまりに無神経かつ無防備だということです。二〇〇一二年十月に始まったカネボウによるM&Aを使った事業再生を求めての『迷走』がよい例でしょう。M&Aの動きが逐一マスコミに流れてしまっだのでは、ティール(案件)がまとまるはずなどありません。付き合わされた花王には気の毒というばかありませんが、案の定カネボウの労働組合が反対したとかの理由でM&Aの話は流れてしまいました。

カネボウはその後産業再生機構の手に委ねられ、調査の過程で約二〇〇億円の粉飾決算が発覚しました。会社の新しい経営陣は、元社長、副社長などを東京地検特捜部に告発する方針とのことです。それにしても、そもそも蕉上との化粧品事業統合のドタバタ劇はいったい何だったのかと疑問に思わずにいられません。

M&Aを行なう際に最も注意を払わなくてはならないのは、内部情報の取り扱いです。M&Aというのは証取法上の重要情報であることが多く、これが事前に漏れてしまってはインサイダー取引の恐れにつながってしまいます。したがって会社の中でM&Aが進行していることを知っている人(インサイダーと、そうでない人(アウトサイダ上とを厳しく峻別する必要があります。交渉や取引を円滑に進めるためには、インサイダーは数人に絞る必要があります。