2015年11月16日月曜日

国際金融システムを防衛する

巨額の変動金利でのドル建債務が累増しているなかで、未曾有の高金利を要求されるとすれば、市場金利に従って利払いを実行するのが困難になると同時に、元本返済も計画通りに進めるのが不可能となるのは当然な結果であった。中南米諸国にしてみれば、オイルーダラーのリサイクリングという美名の下に巨額のドル建債務を押しつけられ、はては米国の自国都合によって引き上げられた超高金利を要求されては、いつまでも黙って元金と金利を支払い続けるわけにはいかなくなる。

八二年八月に従順に思えたメキシコが、まず最初にデフォルト宣言寸前にまで悪化したことから、国際金融市場はパニック的状況に陥った。とりわけ、米国の銀行界に与えた衝撃はすさまじいものであった。仮にメキシコがデフォルト宣言に出たならば、この動きが他の中南米諸国に波及する可能性が小さくなく、国際金融危機が現実化するリスクが出てくるからである。

メキシコの国際収支を点検すると、金融危機に転落したのも無理がないように思われる。たとえば八一年をみると、輸出が拡大努力もありニニ億ドルに増加する一方、輸入は利払いのため国内経済の緊縮策を反映して前年比で四~五割もの減を示した。しかし、利払いだけで約二〇〇億ドルもが必要とされるなかでぱ、経常収支は約六〇億ドルの赤字を計上せざるをえなかった。仮に八〇年代に入ってからの米国の超高金利がなければ、メキシコの利払い負担は七〇億ドル程度であったと推測される。この条件下であれば、メキシコは利払いのために厳しい緊縮策を取るどころか、まったく逆の拡張政策をすらとりえたのであった。

米国の銀行システムを救済するとともに国際金融システムを防衛するには、米国としては金融面からの緊急措置を発動するほかはなかった。実際、FRBは間髪を入れずに行動し、IMF(国際通貨基金)等を通じてメキシコへの緊急融資を決めるとともに、緊急緩和策を通じて、政策金利であるFFレートを八二年夏場の一五%から、一ー月には九%へと大きく引き下げた。わずか五ヵ月でのこれだけのスケールの利下げは空前であり、この過程で金融市場へのドル流動性の供給は相当の規模となった。こうしてメキシコの金融危機は基軸通貨国である米国において大幅な金融緩和を惹起させた。そして、これが八〇年代における同時的資産インフレ発生の開始宣言となったのである。