2012年5月21日月曜日

「産学連携」海外企業を開拓。

「環境に力を入れる米国のグリーン・ニューディール政策は、大きな追い風。むこうで関心を持つ企業もある。年内には提携にこぎ着けたい」。

東京理科大が今月3日、東京・神楽坂のキャンパスで開いた技術説明会。熱を電気に変換する新しい熱電素子を開発した飯田努・准教授は、海外での実用化に夢を膨らませていた。

熱電素子を使えば、ボイラーやエンジンの排熱で発電でき、エネルギーを無駄にしない。米国は、技術を大きく普及させる格好の舞台だ。大型トラックから大規模工場まで、潜在的な市場は日本の数十倍になるとみる。

従来の熱電素子には、毒性のある鉛や高価なビスマスが使われていたが、飯田准教授の開発した素子は、安価で安全なケイ素とマグネシウムが原料。共同研究する米ワシントン大を通じ、米国企業への売り込みにも力が入る。

海外の企業と連携を目指す大学の試みは、まだ始まったばかり。2007年度の大学と企業の共同研究約1万6000件のうち、海外の企業との研究は、0・7%に過ぎない。

研究者間の個人的な関係に頼っていては伸びが期待できないため、海外での提携先の開拓や国際特許の取得に大学が主体的に取り組めるようにと、文部科学省が昨年度から支援を始めた。

理科大はこの制度を活用。「大化けする可能性が高い」と、第1弾の目玉商品に熱電素子を選び、飯田准教授を昨秋、欧州の技術展示会に派遣した。今年も二つの国際学会に送り込む。

理科大の国際連携コーディネーター・仁木保さんは、手応えを感じている。「国内では実績がないと敬遠されがちだが、海外の企業は未知の可能性に注目する。どんどん売り込みたい」。

京都大学も、今年2月にロンドンに産官学連携欧州事務所を開設し、常駐の職員を置いた。「提携する英国の大学を足がかりにして企業を探したい」と、同大産官学連携センターの池内哲之特任教授は意気込む。

ただ、何の技術を積極的に売り込めば良いのか、まだつかめていない。企業のニーズを探りながら、見極めていく方針だ。理科大を飛び込み営業もする機敏なセールスマンに例えれば、京大は客とじっくり話し合う老舗のイメージとも言えるが、「おっとり感」は否めない。

「大学を知ってもらうことが第一だが、相手の要求にスピーディーに応じるビジネス感覚も欠かせない」。会社社長から東北大に転じ、同じように手探りで海外での産学連携に取り組む高橋富男教授は、そう指摘した。