2014年5月3日土曜日

巨額な経常収支不均衡をファイナンスする

ユーロ市場は表にみるように急速な拡大を続けている。市場規模を総資産残高でみると、七三年末の約三二四〇億ドルに対し、八〇年末には一・三兆ドル、九〇年末には五・九兆ドル、九三年九月末には六・四兆ドルに達している。七三年からみれば、二〇年間でちょうど二〇倍の規模に膨張したわけである。

ユーロ市場が急成長をみている背景には、主要地域間において巨大で、かつ持続的な経常収支不均衡が存在していることが大きい。図は主要地域の経常収支不均衡を米国の名目GDPに対する比率で示したものである。これによると、七〇年代における不均衡は主に産油国と非産油国の間におけるものであったことがわかる。また、これは七三年秋から七四年にかけての第一次石油危機と、七八年のイラン革命を契機とする第二次石油危機が主たる原因となったことは明白である。

七三年から八一年の期間をとると、経常収支の累積額は産油国が四二〇〇億ドルもの巨額の黒字となった一方、非産油途上国は約四〇〇〇億ドルもの赤字を計上した。当時とすれば空前の不均衡であっだのにいうまでもないが、この二地域間における大幅な経常収支不均衡は、産油国がユーロ市場に余剰資金の過半を放出し、それをユーロ銀行が非産油途上国に貸し出すことによってファイナンスされた。

八〇年代に入ると、主要地域間の経常収支不均衡は大きく性格を変えることになった。二度に及んだ石油危機が一巡し、産油国の経常収支黒字が急減するなかで、八二年夏のメキシコを契機とした累積債務危機は、非産油途上国へのユーロ市場経由の資金フローを途絶させた。そして、この資金フローの停止は、非産油途上国での激しい景気後退を通じて、経常収支不均衡を強制的に是正させた。

だが、八〇年代に入ると、レーガン革命とでもいうべき米国の経済再生策を反映して、先進国間、とくに米・日・独間での経常収支不均衡が未曾有のスケールとなった。八一年から九三年の期間をとると、経常収支の累積額は米国では約一・一兆ドルの赤字であるのに対し、日本約〇・八兆ドル、ドイツ〇・二兆ドルの黒字を記録している。八〇年代の主要国間における経常収支不均衡は、七〇年代とは比較にならないほどに巨額なものとなったのである。当然、この巨額な経常収支不均衡をファイナンスするため、ユーロ市場は一段と膨張することになった。