2012年12月25日火曜日

出生抑制の必要が強く認識され始めた

すでに一九四六年以来、旧ソ連と旧満州の国境から命からがら引き揚げて来た女性たちには、日本上陸と同時に全員に妊娠検査が行なわれ、ソ連兵との間の妊娠が疑われるものについては、すべて人工妊娠中絶手術が行なわれていた。それらのほとんどは、おどかされ銃をつきつけられての強姦による妊娠であり、年若い女性が混血児をかかえて、日本国内で生きていくのは大変なことであったろうし、またそれを恥として自殺する者も出る可能性はある、したがって特別の人命救助なのだと、その任にあたった産科医も看護婦も自分の心にいい聞かせてはいる(上坪隆著『水子の譜』徳間書店)。

しかし、「この風呂場(手術室のこと・吉村註)でとりあげられた妊娠後半期の赤ちゃんは、しばしば泣き声をあげたという。生きて生まれてきたのだ。弱いうぶ声をあげて泣く赤ちダんを看護婦たちはどうすることもできず、風呂場の片すみに置いておいたという。泣き声はいつか細くなり、そのうち冷たくなっていった」ということも、前掲書には記されている。法律の改正が行なわれたのは、わが国には敗戦と同時に占領軍が進駐し、その若いアメリカ兵だちと日本女性の間には次々と合意か強姦かは別として、混血児の誕生が予想されたからではないだろうか。

追加制定された優性保護法の経済条項は、前に述べたような状態にある女性だけでなく、一般のようやく戦禍からのがれ、戦後の窮乏期を切り抜けねばならない若い人妻たちにも影響を与えた。また後には、女性の自立にもつながった。まずなによりも敗戦による食糧や住宅の不足は、とくに都市部ではなはだしく、そのうえ戦後戦地から続々と復員、引き揚げて来た若い夫たちを迎え、後にベビーブームといわれる、急激な人口増加が起こったからで、そのため、一般国民の間に出生抑制の必要が強く認識され始めた。

第二に、「産めよ殖やせよ」政策や、ベビーブームによる人口増加によって早晩人口過剰の起こることが懸念されたから、戦後、政府や民間の家族計画推進団体が、出生抑制を人口政策の主たる方向と定めた。そしてこれらの目標となる、出生抑制として、優生保護法で容認された人工妊娠中絶が強く影響をおよぼしたのである。つまり「ベビーブームの終結とともに、わが国の出生率は急激な低下を示し始めたI-中略-この出生の低下は主として人工妊娠中絶によって行なわれるという事態が出現した」。

しかし、この人工妊娠中絶手術が解禁されはしたものの、中絶手術による女性の身体の損傷や後遺症などへの関心は、まったく払われていなかった。むしろ行政を通じて流される受胎調節や避妊奨励の情報およびコンドームを主とした現物の廉価販売などは、一般の人々に「貧乏人のようにボコボコ子どもを産むのは恥ずかしい」(岡村島、N子さん)、「昔とちかって今はいやなら子どもを産まんでも、なんぽでもやめる方法はある」(岡村島、N子さんの姑の言葉)という安易な中絶依存ムードを助長した。

それでなくとも、わが身を切りきざむような人工妊娠中絶手術を受けるのは、常に嫁という一家の中で一番弱い立場の人間であったため、その受ける心身の深い痛みをおもいはかる人は、ほとんどなかった。夫の無理解や姑の強制あるいは自分の意思などによって、彼女たち若妻の受けた人工妊娠中絶手術の回数は、十指でも足りない人も珍しくない。お産事情の聞き取りのため、一九八〇年代に訪れた漁村や山村で、私は初老期を迎えた彼女たちと出会い、次のような話を聞いた。


2012年9月26日水曜日

カネも欲しいが「ゆとり」と「いきがい」も欲しい?


日本のテレビ番組では、長い人気を保ちつづけた「サザエさん」につづいて、「チビマルコちゃん」が}躍脚光をあびました。これらのマンガは平凡でありふれた家庭の日常生活を描いているように見えて、実際にはなかなか実現しない「健全な」というか、「わりとモノをつきはなしてみられる」というか、微妙な雰囲気を醸し出し、いかにも日本風のリズムにのって子供と大人のつくりだす地域社会を描きだしています。

日本人にとって、所得水準からいうと中以下で、まだまだ、努力しないと安定とは言えない状況にありながら、妻や子供たちの知恵と工夫と庶民的なイバラナイ素朴さで、毎日毎日のできごとを「かけがえのない」機会として楽しみ、苦しみ、受容し、学習する生活は、ことによると「みはてぬ夢」であるのかも知れません。

これらのマンガが描き出してきた世界は、まことに「カネカネ社会」への風刺ともとれますし、日常の生活のなかにこそ、文化といきがいがあることを教えてくれるような筋立てでした。株や土地のバブル経済とともに日本にやってきた現金重視の風潮は従来の控え目な日本人の生活態度を根底から変えてしまい、「肩で風を切る」「人を跳ね飛ばして進む」「差をつけて叩き落とす」などの生活態度を学校や職場や地域に、はびこらせてきました。

子供たちの世界にも、このことが入りこんでおります。しかし、冷静に構えてみますと、一方では「いくら差をつけようとしたって、しぶとく生きてやるよ」という気持や、他方では、「人に差をつけてみたところで生残れて安全に暮せる機会に恵まれるかどうかは五分五分の確率ではないのか」という思いが頭をもたげてきます。この「つきぬけた」発想は、日本人の間には意外と根強いのではないでしょうか。

このような気持がでてくると、実際の生活では金銭の価値を最も重んじている人でさえ「突っ張って生きる人間には限界がある」「いまの生活をゆたかにしたい」「家族とのコミュニケーションをいきがいにしたい」という感情が強まる傾向があります。この傾向が意味するところを考えてみますと、人々は現実には現金の威力に支配されながらも金銭的な価値の追求を最上の目的と考えないで生活文化の価値を第一に考えてゆこうとする根強い生活態度が日本人の間に生れつつあることを示しているようです。

2012年8月8日水曜日

護送船団行政の現実

大手銀行はなぜ、大蔵官僚たちに日常的な接待攻勢をかけていたのか。それは、戦後の大蔵省の金融行政を特徴づける「護送船団行政」を抜きには考えられない。これは、丸腰の商船や輸送船が組んだ船団を海軍の艦隊が護送する場合、最も船脚の遅い船の速度に合わせることからきている。そうしないと、遅い船は海に置き去りにされ、敵艦や敵機の餌食になったからだ。

同様に大蔵省は最も経営効率が悪く体力が弱い金融機関を基準に、さまざまな規制や保護策を講じたのである。中小金融機関から台湾銀行のような国策の大手銀行までがばたばた倒れた昭和初期の金融恐慌を教訓に、「金融機関はひとつもつぶしてはならない」という掟を自らに課したのである。

法律や政省令、行政指導などによって保護と規制はあらゆる分野にわたった。銀行、証券、保険の業態別の垣根規制をはじめ、金利、新商品開発・販売、支店設置の認可などの重要な規制に限らない。今となっては、ほとんどお笑い草だが、看板のかけ方、客に渡す景品の種類、カレンダーの大きさに至るまで大真面目に口を出したのである。だが、やはり規制の中核といえるのが、業態別の垣根規制と、他産業では商品の価格に相当する金利の規制である。

業務分野規制では、まず、銀行業務と証券業務、さらには保険業務を分離した。そして、銀行業務の中でも長期金融と短期金融の分離、銀行業務と信託業務の分離、中小企業分野の特定化、外国為替業務の特定化が行われた。これらの中で重要なのは、銀証分離、長短分離、銀信分離の三つの垣根である。

厳しい垣根規制で、銀行や証券会社、保険会社などは狭い分野に閉じ込められた。強い力を持つ大手は他の分野に参入する機会を奪われたものの、中下位の企業は手ごわい新規参入者からの攻勢にさらされずに済んだのである。

一方、商品の価格に相当する金利の規制によって、金融機関はさらに競争を免れていた。調達金利である預金金利はもちろん、貸出金利までもが法律や大蔵省・日銀の行政指導で規制されていたのである。業態別の垣根と金利の二重の規制と保護によって、金融機関は手厚く保護された。

この結果、経営体力が弱く非効率な下位金融機関でもそれなりの安定経営が可能になり、上位金融機関は巨額の超過利潤を得ることができたのである。超過利潤は利益の形で表面化しただけではない。大手銀行の行員は世間の常識を超える高給を得ることができた。まさに、大蔵省が主導した「官業一体カルテル」にほかならない。

大手銀行が大蔵官僚たちを接待した理由は、銀行検査の日時、対象支店などという個別具体的な情報を取るという目的は確かにあった。しかしそれ以上に、護送船団行政で巨額の超過利潤を保証してくれていたことの見返りでもあったのである。それだけに、金融機関による大蔵接待は根が深いともいえる。

では、護送船団行政で安定経営を保証してもらっていた中小金融機関はどう返礼していたのか。彼らは、天下りポストの提供をその見返りとしていたのである。ノンキャリアも含めた大蔵官僚の天下り先は、大手金融機関よりも圧倒的に中小金融機関のほうが多いのである。

九三年四月に金融制度改革関連法が施行されてからは、ようやく垣根規制が取り払われ始めた。同年六月には郵便貯金も含めて定期性の預貯金の金利規制は事実上撤廃された。翌九四年一〇月には要求払い預金(流動性預金)の金利も自由化された。九六年一一月には、当時の橋本龍太郎首相が二〇〇一年一月をメドとした「日本版ビッグバン」(金融制度改革)構想を提唱した。キーワードは「フリー」「フェア」「グローバル」である。

九八年四月の外国為替自由化を皮切りに、ビッグバンに向けて銀証分離、長短分離、銀信分離などの垣根規制は次第に撤廃されつつある。また、海外業務を行う金融機関の自己資本比率を八%以上とする国際決済銀行(BIS)規制が厳密に適用され始めた結果、それに耐えられない北海道拓殖、日本長期信用、日本債券信用などの大手銀行が次々と破綻した。

「大蔵省金融汚職事件」は、日本の金融業界、さらには金融行政の転換期に起きた事件だったのである。この事件が起きた時点ではすでに、それまでの長い与野党間の「財政・金融分離」論議の結果、九八年六月に金融監督庁が設立されることは決まっていた。そして、この事件や長銀の破綻処理をめぐる論議によって、九八年十ー月に金融再生委員会が設立され、二〇〇〇年七月に金融庁が設立されることが決まったのである。

この間、金融監督庁設立、金融再生委員会設立、そして今回の金融庁設立と、次々に金融行政部門が改革された。これによって、日本の金融行政そのものが変わったのか。それとも、じつはあまり変わらなかったのか。検証が必要だ。

2012年7月27日金曜日

「心霊現象」は心の病気?精神科に診てもらう方がいい場合がある。

「蒸し暑い夏の夜は、怖い話で盛り上がりたい」という怪談好きの人は、時代や年代を問わずいるようです。上手な語り手にかかれば、恐怖や興奮でスリリングなひとときを楽しめるかもしれません。

心霊現象が純粋に超常現象として存在するのかどうかはわかりません。幽霊やお化けは、一般的に非科学的な現象として扱われています。場や人をわきまえずに、「幽霊が出た」と取り乱してしまったら、怪訝な顔をされてしまうかもしれません。幻聴や幻覚など、場合によっては、その人自身のきちんとした治療が望ましい場合もあるでしょう。ここでは、ひと夏の怖い体験ではすまない、心霊現象に関連する心の病気について解説します。

心霊現象の大部分は、ただの錯覚?

例えば子供のころ、窓の外で何かが動いたのを見て、「お化けが出た」と騒いでしまったことはありませんか? 「そんなのは怖くもなんともない。オヤジが怒ったときが一番怖かった」と茶化せる人は、心霊現象には無縁かもしれませんが、風に吹かれた木の枝や見慣れない鳥、吹き上げられたゴミなどを、子供が幽霊と勘違いして怖がることは珍しいことではないでしょう。

大人が訴える心霊現象も、実際はこうした錯覚の延長であることが大部分ではないかと思います。錯覚とは、視覚、聴覚、嗅覚など、体の知覚器官が受けた何らかの刺激を、脳が別のものと勘違いして認識しまう現象です。

空腹時に人の頭がスイカなどの食べ物に見えたとしたら、それは錯覚かもしれません。ただ、落ち着けばすぐに正しい認識ができる「錯覚」ではなく、もう少し重度な「幻覚」となると、脳内環境に深刻な問題が生じている可能性が出てきます。

幽霊が見えた? 心霊現象にも似た幻覚症状

幻覚は錯覚よりも深刻な精神症状です。幻覚には見えないはずのものが見える「幻視」、聞こえるはずのないはずのない声が聞こえてくる「幻聴」などがあります。もしも、お盆の夜に数年前に亡くなった故人が現われたら? まさしく故人の霊が現われたことになり、心霊現象として語られるでしょう。

しかし、こうした心霊現象も精神医学的な解釈は可能です。脳内環境、特に脳内神経伝達物質のドーパミンの働きに問題が生じたために、知覚に異常が生じ幻を見てしまうわけです。

幻覚は心の病気の代表的症状。統合失調症などでよく見られますが、脳内に腫瘍などの器質的病変がある場合にも生じます。日常的にも寝入りばなのように、覚醒レベルが低下しているときには何かの声が聞こえてくることがあります。

霊に取りつかれた・・・心霊現象にも似た解離性障害

憑依現象はホラー映画などでもよく描かれます。かわいらしい少女が急に不気味な表情になり、恐ろしい言葉を口走るようになったら・・・。「悪霊が取りついた」と表現されるいわゆる憑依現象は、精神医学的には「解離性障害」の範疇に入ります。

解離性障害の「解離」とは、日常的にも軽度なものが見られます。例えば、ボーッとしているときに背中を誰かにたたかれて、ハッと我にかえるような状態は誰にでもあるでしょう。このボーッとしている状態が解離です。解離の程度が大きくなると、病的な症状が出現するようになります。記憶のない時間が現われたり、俗にいう多重人格を発症することもあります。

憑依現象も心が病的に解離した結果だと解釈できます。悪霊に取りつかれたような行動をとる問題については、「憑依という現象がある」という知識が深層心理に働きかけているためと考えられます。

例えば、キツネつき」を知らない人が「キツネつきなど動物の霊がついてしまったような症状が出る人がいるのです。「キツネつき」のような行動をとることは、その文化的背景があるために実際に動物の霊がつくと信じられている地域では、精神医学的には考えにくいと思います。

憑依現象はまれなことだと思いますが、万が一起きてしまった場合は、すぐに精神科(神経科)へご相談ください。

2012年7月4日水曜日

NB牛乳の販売苦戦は当面続きそうだ

大手メーカーが製造したナショナルブランド(NB)の牛乳の販売が苦戦している。乳業各社は3月、原料価格の上昇を理由に約1年ぶりの値上げを実施。その結果、割安なプライベートブランド(PB=自主企画)など競合品に消費が流出している構図だ。

乳業各社は3月、小売業向けに牛乳の出荷価格を1リットル10~20円引き上げた。昨夏までの飼料高を背景に、原料の生乳の価格が引き上げられたためだ。

牛乳の値上げは昨年4月に続き年度内で2度目。「中小の乳業メーカーを除けば、値上げは店頭価格にほぼ反映された」(大手乳業)という。

値上げの結果として生じたのは、牛乳の販売の落ち込みだ。ある大手乳業メーカーでは、NB牛乳の販売量が前年同月比で約2割減少したという。

牛乳は購入頻度が高い基礎的な食品のため、価格の変化が消費に与える影響は比較的小さいとみられていた。酪農団体の中央酪農会議(東京・千代田)が2008年12月下旬に実施した調査でも、既婚女性の8割が牛乳の値上げを許容していた。

それにもかかわらず大手乳業のNB牛乳の販売が落ち込んだのは、スーパーやコンビニエンスストアの割安なPB商品の存在が一因だ。

例えば都内のコンビニでは、PB牛乳は大手乳業のNB牛乳よりも1リットル30~40円程度安い事例が目立つ。割安でも品質に問題があるわけではない。「節約志向の強い消費者がPB牛乳に流れている」(大手乳業)のだ。

通常の牛乳よりも割安な成分調製牛乳などに需要が奪われているとの指摘もある。不況の影が色濃くなるにつれ、消費者の財布のひもが一層固くなっている。NB牛乳の販売苦戦は当面続きそうだ。

2012年6月13日水曜日

少子高齢化が深刻な現在

価格の低位安定から「物価の優等生」と言われた鶏卵にも、ついに物価上昇の波が押し寄せた。JA全農たまご(東京・新宿)など鶏卵大手はブランド卵の価格を1日から1パック(10個)あたり30円程度価格を引き上げた。一般卵も需要の落ちる夏場にもかかわらず異例の高値で推移している。

JA全農たまごの「しんたまご」などブランド卵は栄養価が高いなど高付加価値が売りもの。市場シェアは全国で3割強、都市部では5割を超すとみられる。しかし価格は小売りとの年間契約が多く、価格上昇が目立つ一般卵より安くなる「逆転現象」も目立っていた。

卵には需要変化と生産者の増減産に伴う3―5年周期の価格変動と、年間の需給変動による「エッグサイクル」がある。一般に夏場は需要が落ち、1年を通じて最も価格が安い時期だ。しかし今年は一般卵の全農卸値が7月31日も1キロ195円(Mサイズ=1個の平均重量が61グラム)と前年同月平均を50円も上回った。

丸紅エッグ(東京・中央)の島田博社長によるとトウモロコシなど穀物価格の高騰が波及してブロイラーの飼料コストは過去2年で1キロ60円程度上昇している。さらに低迷した需要も年初の中国製冷凍ギョーザの中毒事件をきっかけに、弁当の総菜を冷凍食品から卵焼きに切り替える家庭などが増え、前年を上回っている。

物価の優等生と言われたのは大規模化などによる生産効率の向上と、90年代までの1990年代までの飼料価格の低位安定という2つの要素に支えられた側面が大きい。現在、2番目の要素=飼料コストは価格の押し上げ要因に変わった。

全農Mサイズの最高値は第2次石油危機時の1981年12月23日に記録した434円。同年は年間平均も342円を記録した。島田社長は「需要が伸びていた70年代と少子高齢化が深刻な現在は違うが、飼料価格の上昇が続けば300円台乗せはあり得る」と予想する。

2012年6月2日土曜日

食の安全にかかわる不祥事

農薬・飼料の使用や原料に配慮した自然食品が、ドイツで急速に広がっている。BSE(牛海綿状脳症)や食肉の虚偽表示など「食の安全」を脅かす問題が相次いだこともあって、消費者の関心が高まり、大手スーパーも商品の拡充を急いでいる。

フランクフルト市の中心部にある大手スーパー「テンゲルマン」の店舗では、一般の野菜や果物に隣接して「Bio(ビオ)」表示の青果売り場が常設されている。ニンジンの価格は10本ほどのパックで通常、約1ユーロ(約150円)。ビオ表示のニンジンはほぼ2倍だ。トマトやリンゴもビオの方が割高だが、在来品とビオ食品の違いを記載したパンフレットでPRするなど販売に工夫を凝らす。

ドイツの自然食品は「リフォルムハウス」などと呼ばれる一部の専門店で販売されてきたが、ニッチ(すき間)な存在に過ぎなかった。大きな転機となったのは、1991年に欧州連合(EU)が有機農法の原料使用や生産管理を法令化したこと。ドイツでは2001年にEU規制に基づくビオ表示制度が始まった。

ビオの表示は、継続的に生産履歴などを管理していることを示す。20年前から自然食品の販売を始めたテンゲルマンなど大手スーパーが相次いで導入し、今では青果、食肉、ハム・ソーセージ、パン、パスタなど約200品目が手軽に買える。業界推計によると、昨年のドイツでの売上高は約40億ユーロ(約6000億円)で、市場規模は5年前の2倍に増えた。

最近、賞味期限が何年も前に切れた冷凍食肉や食用に向かない部位が出荷され、ソーセージなどの原料になる事件が相次いでいる。大手スーパーではひき肉などの賞味期限の書き換えが発覚。連邦政府も罰則強化の検討に乗り出している。

かつて欧州を揺るがしたBSEの対策が整備されても、食の安全にかかわる不祥事は後を絶たない。ドイツのビオ食品ブームは、安全な食品を求める消費者心理と、低価格競争よりも品質を売り物にしたい流通各社の思惑が推進役になっているようだ。

2012年5月21日月曜日

「産学連携」海外企業を開拓。

「環境に力を入れる米国のグリーン・ニューディール政策は、大きな追い風。むこうで関心を持つ企業もある。年内には提携にこぎ着けたい」。

東京理科大が今月3日、東京・神楽坂のキャンパスで開いた技術説明会。熱を電気に変換する新しい熱電素子を開発した飯田努・准教授は、海外での実用化に夢を膨らませていた。

熱電素子を使えば、ボイラーやエンジンの排熱で発電でき、エネルギーを無駄にしない。米国は、技術を大きく普及させる格好の舞台だ。大型トラックから大規模工場まで、潜在的な市場は日本の数十倍になるとみる。

従来の熱電素子には、毒性のある鉛や高価なビスマスが使われていたが、飯田准教授の開発した素子は、安価で安全なケイ素とマグネシウムが原料。共同研究する米ワシントン大を通じ、米国企業への売り込みにも力が入る。

海外の企業と連携を目指す大学の試みは、まだ始まったばかり。2007年度の大学と企業の共同研究約1万6000件のうち、海外の企業との研究は、0・7%に過ぎない。

研究者間の個人的な関係に頼っていては伸びが期待できないため、海外での提携先の開拓や国際特許の取得に大学が主体的に取り組めるようにと、文部科学省が昨年度から支援を始めた。

理科大はこの制度を活用。「大化けする可能性が高い」と、第1弾の目玉商品に熱電素子を選び、飯田准教授を昨秋、欧州の技術展示会に派遣した。今年も二つの国際学会に送り込む。

理科大の国際連携コーディネーター・仁木保さんは、手応えを感じている。「国内では実績がないと敬遠されがちだが、海外の企業は未知の可能性に注目する。どんどん売り込みたい」。

京都大学も、今年2月にロンドンに産官学連携欧州事務所を開設し、常駐の職員を置いた。「提携する英国の大学を足がかりにして企業を探したい」と、同大産官学連携センターの池内哲之特任教授は意気込む。

ただ、何の技術を積極的に売り込めば良いのか、まだつかめていない。企業のニーズを探りながら、見極めていく方針だ。理科大を飛び込み営業もする機敏なセールスマンに例えれば、京大は客とじっくり話し合う老舗のイメージとも言えるが、「おっとり感」は否めない。

「大学を知ってもらうことが第一だが、相手の要求にスピーディーに応じるビジネス感覚も欠かせない」。会社社長から東北大に転じ、同じように手探りで海外での産学連携に取り組む高橋富男教授は、そう指摘した。

2012年5月1日火曜日

大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)の臨時会合

東大西洋と地中海のマグロ資源を管理する大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)の臨時会合が、3月26―27日に東京で開催された。参加した13カ国の政府代表や生産者、流通関係者は、漁獲規制の強化に向けた共同声明を採択し、11月の本会合に向けて一定の道筋をつけた。

市場では今後、価格上昇は避けられないとの見方が支配的だ。しかし、消費の落ち込みなどを背景に、右肩上がりの値上がりについては懐疑的な声も多いのが実態だ。

ICCATは2006年、2010年までに漁獲枠を段階的に2割削減することを決定した。その後、日本商社の現地買い付け価格は2―3割高くなった。国内の小売店の店頭でも、それまで見られた100グラム980円といった特売はほとんど姿を消した。

しかし、値上げに消費は追いついていない。景気は一段と不透明感を強めており、「安いものから売れている状態。クロマグロも例外ではない。販売量は1―2割落ちている」(鮮魚専門店)といった声が多い。築地市場でも「荷動きは停滞しており、高値唱えは通らない」(卸会社)。

地中海クロマグロの約7割前後は日本向けだ。世界的な魚食ブームを受けて、欧米や中国などで需要が増えているのは確か。しかし消費量の大半を日本が占めている状況は、5年、10年の期間では変わらない。「日本の消費が現状のまま落ち込めば、価格上昇にはおのずと限界がある」(卸)と見られる。

そのものに対するマイナスイメージが高まることも相場には弱材料だ。世界自然保護基金(WWF)などは、ICCATの規制が機能していないとして、欧州を中心にクロマグロの不買運動を活発化させている。

この矛先が、クロマグロ最大の買い付け先である日本の商社や小売店に向けられる可能性は十分ある。このまま蓄養のために天然マグロを乱獲し続ければ、「畜養マグロ=資源悪化の張本人」という図式が定着しかねない。消費者が買いを手控え、価格が急落する可能性もゼロではない。

今回の東京会合では、日本商社などにも発言権が与えられた。しかし、実際には発言はほとんどなかったという。有数の扱い量を誇る大手商社からは「自然保護団体から攻撃を受けて企業イメージが落ちることは避けたい。ほどほどの価格上昇でおさまる漁獲規制になってくれれば」。そんな本音の声が漏れているという。

2012年4月16日月曜日

多重債務者の支援活動

夜逃げされた賃貸マンションやアパートなどでは、不動産会社や家主が残された家具の処分などに苦慮している。

不動産関係者によると、部屋に荷物を残して夜逃げされると、処分するには裁判所から強制執行の許可を得る必要がある。こうした弁護士費用や家具の処分費、部屋のリフォーム代などは、連帯保証人がいない場合、家主がすべて負担しなければならないという。

名古屋市内の中堅不動産会社の担当者は「昨年末から倉庫や事務所の家賃滞納が増えた。また、契約上は退去の3か月前に連絡することになっていても、『家賃が払えない。今すぐ出たい』と泣きつく借り主も目立ち、夜逃げを心配している」と打ち明ける。

多重債務者の支援活動を行う「愛知かきつばたの会」の水谷英二事務局長(司法書士)は「夜逃げをしても問題の解消にはならない。弁護士ら専門家に相談して破産手続きをするなど、根本的な解決の道を探ってほしい」と話している。

サンバのリズムに乗ってデモ行進する日系ブラジル人ら古里ニッポン仕事を、住まいを、教育を 日系人1200人、久屋大通デモ不況による雇用調整で職を失った日系ブラジル人やペルー人ら約1200人が1日、名古屋市中区の久屋大通公園周辺約1キロをデモ行進し、雇用や住まいの確保、子供の教育への支援などを訴えた。

参加者らは「日本を古里だと思って、発展のために尽くしてきた。自立した生活ができるように、住む場所や学費を支援して」などと声を張り上げていた。愛知県豊田市で、ブラジル人の子供らを教える学校の校長ジョゼリア・ロンガット・フイジオさん(48)は、「昨年10月から生徒が減り始め、今では半数以下になった。教師も2人減った。仲間の声を多くの人に届けたい」と話していた。

2012年4月11日水曜日

特例について教えてあげよう

うん。これが相続時精算課税制度を選択すると2500万円までは非課税なので、贈与税はゼロとなるよね。そして将来、たとえば10年後にその親が亡くなってしまったとしよう。相続の手続きが発生するね。

そのときの親の財産合計が2億円だったとする。そうすると、10年前に相続時精算課税制度を使って贈与した1000万円も財産の合計に加えて、2億1000万円の財産があったものとして相続税を計算するんだ。

だから「相続時精算」なのか。贈与したときは税が優遇されても、結局相続のときにその分が反映されるんだね。次に、相続時精算課税制度の控除枠2500万円を超えて、3000万円を贈与した場合をみてみよう。2500万円を超えた500万円に対して一律20%の贈与税がかかるから、贈与税を100万円支払うことになるね。

うん。そして、その後、将来に相続が発生したときの親の財産合計は1000万円だったとしよう。亡くなる前に贈与していた3000万円を加えた4000万円を基準に相続税を計算すると、相続税はゼロとなる。相続税がかかるほどの財産はなかったわけか。

じゃあすでに払った贈与税100万円はどうなっちゃうの?この場合は、差額100万円分が還付されることになる。贈与税と相続税を一本化して、相続時に差額を精算というわけだね。もう一方の暦年課税で支払った贈与税は、後から戻ってはこない。

ボクの親は相続税が発生するほどの財産なんてないけど、どうすればいいの?将来、相続税が発生する見込みはないという人が110万円を超えた金額を贈与する場合は、相続時精算課税制度を使ったほうが得する可能性は高いね。

相続って名前がつくとお金持ちだけが対象なイメージだけど、これならボクにも全く関係ない話じゃないね。実際にどちらかの制度を選択するときは、専門家に相談するのが基本だよ。不動産のように贈与時と相続時で評価額が増減するものだってあるし、資産がたくさんある人は相続対策とも一緒に考えないといけないからね。

安易に決めちゃいけないわけか。選択する際の大きなポイントにもなる「そもそも相続税はどれくらい財産があると発生するか」についても、今度学んでみよう。

2012年4月1日日曜日

新型インフル、重症化に備え「学校感染」注視

新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)について、国は21日、流行期に入ったと発表した。
感染の広がりを緩やかにし、重症化を防ぐための取り組みが重要だ。

「先週からの患者数の伸びは緩やかで、まだまだ流行はこれから。南半球での大流行を考えれば、これから例年(1000万人程度)の4~6倍の患者が出る恐れもある」。インフルエンザに詳しい外岡立人元小樽市保健所長は、現在の流行状況について、そう警告する。

「流行」の指標は、1医療機関当たりの平均患者数が1人を超えた状態だが、通常のインフルエンザでも、冬の最盛期には40人を超えることが珍しくない。

新型インフルエンザが一足先に猛威をふるったオーストラリアなど南半球では、今年は例年の4~6倍の患者が発生。集中治療室や人工呼吸器が不足し、多くの死者を出している。これを単純に日本にあてはめれば、ピーク時には現在の100倍ほどの患者が出る計算だ。

では、実際には今後、国内流行はどう推移するのか。9月に新学期が始まった後、小中高校などで集団感染が拡大するようであれば、冬に向かって患者数は増え続け、例年の4~6倍という最悪のシナリオに陥る可能性がある。

ただし、同じ北半球の米国やカナダでは、7月上旬に感染者数がピークを迎えた後、流行が落ち着きを見せ始めており、日本でもいったん流行が落ち着く可能性もある。「いずれにしろ大流行に備え、注意深く推移を見守る必要がある」と、外岡さんは指摘している。